千年先の、未来へ。

エコアイランド宮古島公式サイト

follow us
Instagram facebook

Message from ecoislandエコアイランド通信

2026.10.23
お知らせ

10年ぶりの調査で見えたヤシガニ保護条例の成果

来間島のヤシガニはどう変わった? 10年間の調査から見えた保全の成果

来間島で行われたヤシガニの生息状況調査について、報告会が開かれました🌴


報告会では、沖縄県立芸術大学教授で、海洋生物(特に甲殻類と棘皮動物)の分類および生態を専門とする藤田先生が、2026年春に来間島で実施したヤシガニ調査の結果を報告しました。2015年に行ったタコ公園周辺で実施された生息状況調査との比較から、宮古島市ヤシガニ保護条例や地域の方々による保護・保全の取り組みによってヤシガニの体の大きさに変化が見られたことなどが紹介されました。

なぜ、10年ぶりに調査を行ったのか

宮古島市では、2016年に「宮古島市ヤシガニ保護条例」を制定し、ヤシガニの捕獲できる大きさや時期などについてルールを定めています。

今回の調査は、条例制定から10年が経過する中で、保全の取り組みによってヤシガニの生息状況がどのように変化したのかを科学的に確認することを目的に行われました。


藤田先生は、2015年にも来間島のタコ公園周辺で調査を行っており、今回は同じ地域を改めて調べることで、過去との比較ができるようにしました。

2026年4月・5月に行われた調査では、タコ公園周辺、北部海岸、長間浜周辺の3つのエリアを計9日間かけて調査しました。

調査では、アダンなどが生い茂る森林の中に入り、ヤシガニを探して一匹ずつ捕獲。頭胸甲の大きさや体重、性別などを記録し、個体を識別するための番号を付けて放しました🔍️

9日間で1,354個体を確認

9日間の調査で確認されたヤシガニは、1,354個体。内訳はオス562個体、メス792個体でした📊

確認された最大の個体は、頭胸甲長63.9mm、体重1.99kg。約2kgの大型個体も確認されました。

さらに今回の調査では、ヤシガニの甲羅にペンで『背番号』を書いて逃がし、約2週間後に同じルートをもう一度踏査して、番号がついている個体とついていない個体の数をカウントする『再捕獲調査』という方法を用いて、生息数の推定が行われました。

その結果、調査データから推定された来間島全体のヤシガニの生息数は、約19,600個体となりました。なお、この推定には幅があり、推定区間は約15,500~28,000個体です。


藤田先生は、「わずか9日間の調査で1,354個体ものヤシガニに背番号を書いて計測することができました」と報告。さらに、そのデータをもとに、来間島全体に「約2万匹ものヤシガニが生息しているという推定結果になった」と説明しました。

10年間で平均サイズが1.4倍に

今回の調査で特に注目されたのが、2015年と2026年の調査結果を比較したデータです。

2015年の調査では、タコ公園周辺で頭胸甲長20mm付近の小型個体が多く確認されていました。

それに対して2026年の調査では、個体の大きさを示す分布のピークが30mm付近へ移動。統計的な解析の結果、ヤシガニの平均サイズは10年間で約1.4倍に大型化していることが確認されました✨️

藤田先生は2015年の状況について、「性成熟前の小さな20mmサイズばかりで、捕獲圧が強すぎて大型の個体はほぼ絶滅状態」だったと説明しました。

そのうえで2026年のデータについて、「サイズを示すグラフの山が明確に右(大型側)にシフトしています」と話し、平均サイズが1.4倍になったことを報告しました。

この結果について藤田先生は、保全条例を作り、地域でルールを守ってきたことで、生物のサイズが大きくなり、資源が回復したことを科学的なデータで示すことができたと説明しました。

一方で、「10年間もの間、地域をあげて我慢して守って、ようやく1.4倍にしかならない。それがヤシガニの成長の遅さなんです」とも話しています。

ヤシガニは成長が非常に遅く、握り拳ほどの大きさになるまでにも、オスで11~15年、メスでは25~30年ほどかかるとされています。そのため、一度減少した個体群を回復させるには長い時間が必要です。

大きな個体を残すことも保全のポイント

報告会では、なぜヤシガニの捕獲サイズを制限するのかについても説明されました。

ヤシガニは繁殖の際、メスが自分よりも体の大きなオスを選ぶ性質があります。

藤田先生は、「メスは『自分よりも身体が大きいオス』を厳格に選ぶという強い習性があります」と説明。小型のオスではなく、大型のオスが繁殖を支えることから、ヤシガニの個体数だけでなく、さまざまな大きさの個体が生息することが重要だと話しました。

今回の調査で大型の個体が確認され、10年前と比べて平均サイズの大型化が確認されたことは、こうした保全を考えるうえでも重要な結果となりました。

ヤシガニが暮らせる環境を守る

ヤシガニは陸上で生活しますが、繁殖には海も必要とする生き物です。

森林で暮らし、海岸まで移動して繁殖するため、ヤシガニの生息環境を守るには、森だけでなく海岸や海とのつながりも重要になります🌊

報告会では、ヤシガニの生息場所となる森林や海岸の環境についても話がありました。

今回の調査で推定された約19,600個体という生息数や、10年間で平均サイズが約1.4倍になったという結果は、来間島で続けられてきた保全の取り組みを科学的なデータから確認するための重要な資料となります。

守るだけではなく、将来も地域で利用できるヤシガニへ

報告会では、ヤシガニを保全することと、地域で利用することについても藤田先生から話がありました。

ヤシガニは、島の人々に食用として利用されてきた生き物でもあります。藤田先生は、ヤシガニの希少生物としての価値を認めながらも、捕獲可能な体サイズの個体は適切に利用し、ヤシガニにまつわる文化を繋いでいくことも大切だと話しました。

「僕の究極的な目標は、沖縄、琉球列島の様々な島で、捕獲して良いサイズの個体は食べることができな、そんな日常になって欲しい」と話し、将来的にはルールのもとで捕獲してよいサイズのヤシガニを地域で利用できる状態を目指したいという考えを示しました。

また、「食べる(利用する)ことによって生まれ、将来に繋いで行くべきヤシガニ文化もある」と話し、ヤシガニの利用が、人とヤシガニとの関わりや地域の文化を次の世代につなぐことの重要性についても言及しました。

一方で、絶滅の危機にある生き物だからといって、「触れない」「大事にしなければならない」という考えだけになってしまうと、人とその生き物との関わりそのものが失われるのではないかという考えも示しました。

「かつて島々の人たちがヤシガニを利用していたように、将来も利用できる状態になることが、望まれるべき姿だと思う」と話しています。

2015年と2026年に同じ地域で行われた調査を比較することで、ヤシガニの大型化が確認されました。今回の調査結果は、来間島でこれまで行われてきた保全の取り組みを考えるうえで、今後も活用できるデータの一つとなります。

調査結果をこれからの保全へ

今回の調査では、2015年と2026年に同じ地域で調査したデータを比較することで、保全活動を続けた10年間に、来間島のヤシガニの個体が大型化したことが確認されました。

藤田先生は、生物の保護・保全のためにルール(条例)を設けるだけでなく、その後の追跡調査を実施し、ルールの効果について検証した事例は「少なくとも甲殻類では国内に前例が無いと思う」と説明しました。

また、同じ場所で過去の調査結果と現在の状況を比較できることは、保全活動の効果を考えるうえで重要だと話しました。来間島では、2015年に調査を行っていたことが、10年後の変化を確認するうえで大きな意味を持ちました。

藤田先生は、今回の調査結果を今後論文にまとめる予定であることにも触れました。今回の調査は、ヤシガニの生息状況だけでなく、保全活動によって個体の大きさにどのような変化が生じたのかを、実際のデータで検証する機会にもなっています。

一方で、ヤシガニの成長には長い年月が必要です。大型化が今後も続くのか、個体数や繁殖状況にどのような変化が現れるのかを明らかにするため、継続的な調査が必要です🌿