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2026.09.03
お知らせ

ワラザンが伝える宮古島の暮らしの知恵

ワラザンとは?

現在では、数字や情報を記録するために紙やスマートフォン、パソコンなどを使うことが当たり前になっています📱💻
しかし、かつての沖縄では、文字や紙だけに頼らず、身近な植物や縄を使って数量や情報を記録する独自の方法が受け継がれていました🌿

その一つが、「ワラザン」です。

ワラザンとは、藁(わら)や縄の結び目を利用して、数や数量、日数などの情報を記録する道具です。
藁の茎や縄に結び目を作り、その形や位置、組み合わせによって数字や内容を表現しました。穀物や上布(じょうふ)の量、人の数、金額など、当時の暮らしに必要なさまざまな情報を記録するために使われていました。

沖縄では地域によって呼び方が異なり、「ワラザン」「ワラサニ」「バラザン」「ワラザイ」などの名称があります。宮古島では「バラザン」と呼ばれることもあります。
ワラザンは、単なる「数を数える道具」ではありません。文字による記録が一般的ではなかった時代に、人々が身近な素材を利用して情報を管理するために生み出した、沖縄独自の知恵でした✨

結縄(けつじょう)とは?

ワラザンを理解するうえで欠かせないのが、「結縄(けつじょう)」という文化です。

結縄(けつじょう)とは、紐や縄に結び目を作ることで、数量や情報を記録・伝達する方法のことです。
文字を使った記録が広く普及する以前、人々は生活に必要な情報を残すために、身近にある素材を活用してきました。その一つが、縄や紐を結ぶ方法です。結び目の数や形、縄の長さ、色、配置などを組み合わせることで、数字や内容を表現していました。結縄文化は沖縄だけに見られるものではありません。世界各地で確認されており🌏、代表的なものとして南米アンデス地域のインカ帝国で使われた「キープ(クエプ)」があります。キープは、多数の紐を束ね、結び目の位置や数によって人口や物資などの情報を記録したものです。
そのほかにも、ネイティブアメリカン、インドネシアのスマトラ島、中国などでも、結び目を利用した記録方法が存在していたことが知られています。
日本でも、過去に香川県や静岡県で結縄の慣習があったとされています。
沖縄のワラザンも、こうした世界的な結縄文化の一つであり、島の暮らしや社会制度の中で発展してきました。

ワラザンに使われた素材と記録された内容

ワラザンという名前から藁だけを使った道具と思われがちですが、実際には地域や用途によってさまざまな植物が利用されました。

主な素材には、

  • 稲わら
  • アダンの気根
  • ゲットウ
  • 蘭草

などがあります。
島で手に入る身近な植物を利用し、必要な情報を記録する道具として活用されていました。

ワラザンに記録された内容は多岐にわたります。

例えば、

  • 人口や家ごとの人数
  • 集まりに参加した人数
  • 穀物(粟や米など)の量
  • 金額
  • 布の長さ
  • 家畜の数
  • 材木の大きさ
  • 質入れの日付や金額
  • 祭祀や祈願に関するもの

などがあります。

これらは、当時の人々が暮らしや地域運営を行ううえで必要な情報でした。

ワラザンの仕組み ― 結び方で数字を表す知恵

ワラザンは、単純に縄を結んでいるだけではなく、結び方や素材の使い方によって数字を表す仕組みがありました。
基本的には、藁の茎や縄を組み合わせて位を表現します。

例えば、

  • 藁の茎1本で「1」
  • 特定の結び方で「5」
  • 縄で「10」の位
  • より太い縄や輪状の結びで大きな位

を表しました。

10の位を表す縄を5を表す結びにすることで「50」を表し、そこに藁4本を加えることで「54」と表現することができます。

このように、結び目の位置や形を変えることで、複数の数字を記録できる仕組みになっていました。
また、ワラザンには用途ごとに特徴的な形をしたものがあります。

例えば、「献木算(けんぼくざん)」は、公共事業などで必要となる木材の長さを表すためのワラザンです。

「ニワトリ算」は、各家庭からニワトリを提供したかどうかを記録するために使われました。輪になった部分は家庭を表し、ニワトリを提供した家には藁を結び付けることで、提供したことを記録していました。

また、山原船(やんばるせん)と呼ばれる交易船の積荷である薪や炭の量を表したワラザンも残されています。

このようにワラザンは、単なる計算道具ではなく、当時の社会や暮らしを支える記録手段として利用されていました。

人頭税制度とワラザンの発展

宮古島や八重山地域でワラザンが発達した背景には、琉球王府時代に行われていた人頭税制度があります。人頭税とは、一人ひとりを基準として税を課す制度で、宮古地域では主に粟や上布などを納めていました。税を徴収するためには、誰がどれだけ納める必要があるのかを正確に管理する必要がありました。そのため、数量を記録できるワラザンが重要な役割を果たしました。
明治時代に沖縄県の第2代県令である上杉茂憲(うえすぎもちのり)が宮古・八重山を巡検した際の記録「上杉県令巡回日誌」には、村ごとの納税量をワラザンで確認できる仕組みについて記されています。
また、笹森儀助の『南島探験』にも、税の徴収に板札(ばんさつ)とワラザンが使われていたことが図とともに記録されています。しかし、1849年には役人による税の不正な取り立てである「割重穀事件」が発覚しました。
この出来事を受け、1856年には農民自身も納める税額を確認できるよう、役所からの通知に板札だけでなくワラザンを添えることが定められました。
こうしてワラザンは、税の管理だけでなく、納税内容を確認するための役割も担うようになりました。その後、1903年に人頭税制度が廃止されると、実用的な記録手段としてのワラザンは急速に使われなくなっていきました。

ワラザンを記録した研究者たち

ワラザンが現在まで知られている背景には、調査や研究を行った多くの人々の存在があります。その中でも、最も早く、そして詳しくワラザンを調査した人物が田代安定(たしろあんてい)です。

田代は植物学を学んだ研究者で、1882年に農務省の命令による沖縄調査を行いました。その後、帝国大学(現在の東京大学の前身)の嘱託として、1886年から1887年にかけて沖縄や宮古島の植物・民俗調査を実施しました。
この調査の中で、田代は沖縄本島と宮古島を中心にワラザンを記録・収集しました。
田代安定の研究が特に重要とされる理由は、人頭税制度が残っていた時代に、実際に使われていたワラザンを調査した点にあります。田代が収集した資料は約200点以上に及び、現在は国立民族学博物館に保管されています🏛️その後も、さまざまな研究者がワラザンを調査しました。

矢袋喜一(やむろきいち)は、数学的な視点からワラザンの数の表現方法を研究しました。収集した資料を図として記録し、ワラザンの数理的な仕組みを明らかにしました。

須藤利一(すどうりいち)は、八重山地域を中心に調査を行い、宮古・八重山のワラザンには一定の法則性があることを指摘しました。また、その背景として人頭税制度との関係について研究しました。

中野敏雄は、戦後の沖縄各地で聞き取り調査を行い、竹富島などで残されていたワラザン資料を調査しました。中野が収集した資料の一部は、現在宮古島市総合博物館に保管されています。

もう一つの結縄文化「サン(宮古ではマータ)」

沖縄には、ワラザンとは異なる形で、現在も残る結縄文化があります。

それが「サン」です。

宮古島では「マータ」や「ミツマタ」と呼ばれることが多く、植物の葉や茎を結んで、魔除けや意思表示などに使われてきました。ワラザンが数量や情報を記録するための道具であるのに対し、サンは人々の願いや意思を表す文化として受け継がれています。

例えば、沖縄本島では食べ物を近所へおすそ分けする際、食べ物の上に小さく結んだサンを置くことがあります。これは、食べ物に魔物がつかないようにする魔除けの意味があります。

地域によって使い方は異なり、

  • 畑に立てて豊作を願う
  • 所有場所を示す
  • 立ち入り禁止の意思表示に使う
  • 葬儀の際に厄払いとして使う

など、さまざまな役割があります。

宮古島では、畑に立てる三脚状のものや、葬儀の際に使われる三股状のものなど、用途によって形が使い分けられています。

現在に受け継がれるワラザンの文化

人頭税制度の廃止以降、かつてのような複雑なワラザンはほとんど使われなくなりました。しかし、ワラザンの文化そのものが完全に失われたわけではありません。
宮古島では現在も、宮原(みやはら)、下地、上野、城辺などの地域で、祭祀のためにワラザンが作られています。

特に宮原地域では、「バラザン」「ヤーキ算」と呼ばれるワラザンがあり、集落の戸数や人数を表したものが御嶽(うたき)へ奉納されています。
ワラザンは、かつて島の暮らしや社会を支える記録方法として使われ、現在では宮古島の歴史や文化を伝える貴重な資料となっています🌺身近な植物を結ぶことで情報や願いを伝えてきたワラザンとサンは、島の自然と人々の暮らしが結びついて生まれた文化です。

企画展の会期中には、展示担当学芸員による展示解説や関連講座も予定されています😊展示をより深く理解できる内容となっていますので、参加を希望される方は宮古島市のホームページで最新の開催日時や申込方法をご確認ください。

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